蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

『器量』芥川龍之介

 天竜寺の峨山がある雪後の朝、晴れた空を仰ぎながら、「昨日はあんなに雪を降らせた空が、今朝はこんなに日がさしている。この意気でなくては人間も、大きな仕事はできないな」と言いし由。今夜それを読んだら、かなわない気がした。わずか百枚以内の短篇を書くのに、悲喜こもごも至っているようでは、自分ながらきのどく千万なり。この間も湯にはいりながら、湯にはいることそのことは至極簡単なのに、湯にはいることを書くとなるとなかなか容易ではないのが不思議だった。同時にまた不愉快だった。されど下根の衆生と生まれたからは、やはりしんぼう専一に苦労するほかはあるまいと思う。

 偉大なる先人は悩む姿すら画になる。