蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

近江舞子の週末Amazonでポチってこれ読もう No.3(後編)

舞子:こんばんは。近江舞子です。さて、今回はシンさんの二回目、「先週あれ読んだよ」編です。


辻村深月『ぼくのメジャースプーン』

ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

ぼくのメジャースプーン (講談社文庫)

ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に1度だけ。これはぼくの闘いだ。


舞子:さっそくポイント1から入りましょう。


シン:はい。お願いします。


舞子:「人を傷つけてまったく罪悪感を覚えずにいられる相手に対し、どういう選択肢を与えれば、効果がありうるのか」ということ、もしくはそれをめぐる議論、真に利己的で、ほんとうにまったく悪びれない人間に、罪を自覚させたり、罰を与えたり、するような「言葉」が、存在するか?


シン:改めて見ると、もうちょっと整理してお伝えしたかったポイントという気もしますが、今回読み直してみて、とはいえやっぱり好きなところはここだな、という気はします。


舞子:主人公の「ぼく」が出した言葉も秋山先生が提示した言葉も、しっくりきませんでした。それで、わたしなりの言葉を探して、ついさっきまでずーっと考えていたんですが、結論が出ませんでした。
すみません。


シン:いえ、じぶんも似たようなものです。物語の結論や、物語内で提示されるそれぞれの意見に対して、ところどころで、なるほど、とは思ってますが、完全にしっくりくるものではなくて、折に触れて考えたりしている物語、という感じです。


舞子:最初は、「能力」を使って全身に「ウサギ殺し」とタトゥーを入れさせる、なんて思ったりもしたんですが、単なる酷い罰でしかないな、と。
それでは、心底反省させられないし、罪悪感は芽生えないでしょうし。


シン:そうなんですよね。反省を求める、っていうことの根本的な難しさを感じさせられるなと思います。
相手の心をある程度操作できてさえ、罪を自覚させることは難しいのだな、ということをすごく感じました。


舞子:現実世界の刑罰においてはもっと、ですよね。


シン:そうですね。
よくあの設定を考えたなと思いました。


舞子:失礼ながら、うまいなと思いました。


シン:問題提起、設定、ストーリー、をあれだけ絡めてこられると、やっぱりうまいなと思っちゃいますねー。


舞子:ポイント2に行きましょうか。
「「邪悪さ」に向き合ってどうすべきか、ということについて、複数からの視点、登場人物ごとにきちんと違う価値観、思想、が語られていて、その細やかさ」
これは、どの人物の意見にもなるほどそういう意見があるのかと、一部は納得できるところがありました。
話が作者の独りよがりじゃないところに好感が持てました。


シン:そうですね。それぞれの人物が、ちゃんと譲れないところを持っていて、そこを基礎に、ちゃんと主張が構築されている感じがありました。


舞子:ちょっとポイントから逸れるのですが、動物の命の軽重とか、何が残酷で何が残酷でないか、という点は考えませんでしたか?
わたしはそこに以前から興味があったので、考えました。


シン:そうですね、だいぶ考えました。やっぱり、最初に相手に罰を与えるってことを考えると、ウサギと同じ目にあわせる、っていうの、考えちゃいますし、そこでウサギと人間を同じラインで考えてよいのか、もしくは、犯人が狙ったのが人間だったらとか、ウサギではないもっと小さな生物だったら、って方向には考えざるをえなかったところあります。
そもそも、残酷さで罪や罰を計れるのか、とかもですね。


舞子:今、正式名称をググったんですが、「動物の愛護及び管理に関する法律」で「愛護動物」というものが決まっていて、殺していい動物とだめな動物が決められているみたいなんです。何でその線引き何だろうって前から思っていたんです。


シン:お!そうなんですね! それ凄いな……
線引き考えちゃいますね。


舞子:わかりやすいところだと、犬や猫は殺しちゃダメだけど、ねずみはいい、となっています。


シン:なるほど……。しかもそこ微妙なラインですね……


舞子:もちろんペットとして飼っていない動物ですが。
まあ、ペットであるねずみなんてそうそういないと思いますが。


シン:あれじゃないですか?ハムスターってネズミ区分っぽい気がします。


舞子:近しい気はします。


シン:ウサギを基調にしたストーリーでもありますし、このあたりについてもやっぱり問いとして立てられる物語になってるな、と思います。


舞子:絶妙なところだと思います。
「能力」としかけも、テーマ設定も、話の流れも、登場人物も、すべてがよいバランスが良いと思います。


シン:そうなんですよねー。最初読んだときびっくりしました。しかもあんまり派手な事件を起こすというのでもなく、議論を中心に、でも、緊張感をはらみながら、堅実に進んでいくし、よくこんな発想あったな、って思いました。


舞子:リアルですよね。「能力」という仕掛けを別にしたら、すべて現実にあってもおかしくない。


シン:たしかに。


舞子:では、次のポイント3ですが、本書以外を読む余裕がなかったので、省略させていただきます。またいつか読む機会があればということで。


シン:はい。問題ないですー。


舞子:『ぼくのメジャースプーン』に関してはここまでとして、シンさんに質問が。
普段、どういうアンテナをはって本を選んでいるのでしょうか?


シン:お、なんか改めて聞かれると難しいですね。
最近の流れで多いところだと、この分野、このジャンル、おもしろそうだな、って思って、そこから、その分野を専門にしてたり、趣味にしてたりするブログに辿り着いて、おすすめの本ながめたり、Amazonあたりでジャンル名検索して「入門書としておすすめ」って書かれてるものをあさったりしています。
それか、わりと休みの日に大きめの本屋さんに行くのが好きなので、興味あってもなくてもとりあえず全ジャンルまわってみて、楽しそうなタイトル手に取ってみる、というのはちょこちょこやりますね……。


舞子:なるほど。ジャンルで攻めるというのは、わたしがやってこなかった方法ですね。本当にわたしは雰囲気から受け取った直感で決めるものですから。


シン:最近、小説より学問・趣味系の本のほうが読むことが多いせいというのもあると思います。小説だとこの方法使いづらいですし。小説は結局、読んでるブログでおすすめされてるもの、とかになっちゃってる気がします。


舞子:では、締めましょう。この度はたいへん良い作品を紹介していただきありがとうございました。それに、シンさんとチャットができて嬉しかったです。


シン:こちらこそ、いままできちんとお話しできる機会がなかったので、ほんとうに嬉しかったです。機会を作ってくださってありがとうございました。