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蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

「Amazonプライムビデオでこれ見よう」No.3『ヴィジット』

近江舞子 : 「Amazonプライムビデオでこれ見よう」
始まりました。第三回は、『ヴィジット』でお送りします。
ここでは、映画鑑賞の道の先輩である踊る猫さんに、後輩である僕、近江舞子が学びながら語り合っていきます。
では、よろしくお願いします。



踊る猫 : よろしくお願いします。



近江舞子 : Amazonの説明文では、「休暇を利用して祖父母の待つペンシルバニア州メイソンビルへと出発した姉弟。都会の喧騒から離れて、田舎での楽しい一週間を過ごす予定だった――その時までは。優しい祖父と、料理上手な祖母。しかし出会えた喜びも束の間、就寝時、完璧な時間を過ごすためと、奇妙な「3つの約束」“楽しい時間を過ごすこと”“好きなものは遠慮なく食べること”“夜9時半以降は部屋から絶対に出ないこと”が伝えられる。」となっています。



踊る猫 : そうですね。そういう話だと思います。ただ、この映画について考えたんですが何処までスジに触れて良いのか悩むんですよ。実はその説明文自体にトリックが隠されているんですよね。あとは、これは後々触れることになると思いますが姉と弟がシングルマザーの下で育てられていることと、両親がそうやって離婚したことでトラウマを背負っていることも重要ですね。



近江舞子 : 僕は、これを観て、感想に困りました。始終不気味な雰囲気があって退屈はしなかったのですが、「え、そのオチだけのために話が進んだの?」と思ったからです。
そこが、先輩との映画鑑賞においての差かな、と。


踊る猫 : オチというのは、文字通りのエンディングですか? それともトリックが判明するところですか?



近江舞子 : トリックが判明するところです。



踊る猫 : なるほど。確かに単純と言えば単純と言えるトリックですね。ただ、私はすっかり騙されて観ていたし、M・ナイト・シャマランの映画も『シックス・センス』と『ヴィレッジ』程度しか観てないんですが如何にもシャマランらしいトリックだなと思わされたんですね。
ああ、あと『アンブレイカブル』も観たな。



近江舞子 : だから、今回は先輩にたくさん語っていただきたいなと思います。



踊る猫 : いや、語るのが難しい作品なんですよね。トリックの核心に触れるようなことは語れないので。ただ、これは POV 形式の作品であることが重要ですね。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や日本では白石晃士監督の作品が有名ですが、シャマランは初めてこの語り口を使った、と。ひと口で言えば手持ちのカメラに撮影させて、それを編集した作品ということになるのかな。



近江舞子 : 白石晃士監督は、以前、先輩におすすめしていただいた『ある優しき殺人者の記録』の方ですね。あれとかこれをPOV形式というのですね。



踊る猫 : そうですね。今回の場合は姉が持っているハンディカメラの映像を使って編集した作品、という。そこにこの作品の魅力と、あとで語るかもしれませんが弱点があるように思います。



近江舞子 : ぜんぜんカメラの視点というものを意識せずに観ていました。



踊る猫 : カメラワークが、例えば軒下の姉と弟の追いかけっこの場面で手ブレが激しいじゃないですか。そういうところに生々しさというか、臨場感は感じました。ただ、「このままじゃ『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』と同じことをやってるってことじゃないかな……」とは思いました。



近江舞子 : どこに決定的な違いを見つけましたか?



踊る猫 : 見つけられたのは、結局トリックにおいてですねw あんな展開を持って来るかと。私が単純なだけでミステリ慣れしている人は気づくものなのかもしれないですが、個人的には衝撃的だったんです。



近江舞子 : ああ、なるほど。僕はミステリーを好まないから、この映画をミステリー映画だととらえ、「トリックだけじゃないか」と思ったのでしょう。



踊る猫 : 私はシャマランの作品はどぎつい色彩に惹かれるものを感じるんですよ。「赤」の使い方とか。そのあたりも楽しめたんですね。「トリックだけじゃないか」と思われた一因は、私なりに感じたこの作品の弱点の「姉と弟のトラウマが今ひとつ深く描けていない」というところに原因があるのでしょうか?



近江舞子 : そうですね。お父さんがいなくなって……と言っていたわりには、それがあんまり関係ないなと感じましたね。



踊る猫 : 姉は鏡で自分の姿を見ることが出来ないことと、弟が極度の潔癖症になってしまったというトラウマの原因ですね。あれは難しいですね。設定上父との回想シーンを挿れられないということになっているので。それが出来ていれば……とは思いました。
ただ、それが出来ないことが彼らのトラウマの深さを現していると受け取る人も居るでしょうから……。



近江舞子 : 弟は極度の潔癖症でしたが、ふつうにモノを触っていましたよね?
そこにツッコミを入れてしまいました。



踊る猫 : 恥ずかしながらその点はあまり深く考えてなかったですが、言われてみるとそうですね。編集して省略したということにしたのかな? 行きの電車の中で一箇所だけ言及されるところがありますが。



近江舞子 : どうでもいいところで言うと、弟が上着の内ポケットから何かを取り出そうとして、実は中指立ててFUCK YOUのところが好きです(笑)



踊る猫 : ああ、これも恥ずかしいな。そういうところは観逃してました……。
他に印象に残った場面ってありますか? 私は結局一度しか観ていないのでかなり観逃していると思いますが。



近江舞子 : カメラを向けられた車掌と相談員のふたりが、そろって「実はわたしは昔役者をやっていてね」と言って芝居をしだすところが三谷幸喜的というか。まあ、三谷幸喜が外国の真似をしているのでしょうが。
もう一つ、終盤で弟が「敵」に立ち向かうときに、昔のアメフトでの失敗を克服できたところは、おおーと思いました。



踊る猫 : そうですね。姉も割れた「鏡」の欠片で「敵」を刺すんですよね。それでふたりは、これはネタを割っても大丈夫だと思いますがトラウマを克服したことになるんですね。エンディングの弟のラップの場面では普通に姉が鏡を見て化粧してますしね。
個人的にグッと来たのは、姉がオーブンの中に入るところですね。あそこは「来るか……? 焼かれるか……?」とこちらを釣って行く力があったと思ったんですが近江さん的にはどうでしたか?



近江舞子 : 焼かれると思いました。見事に釣られました。



踊る猫 : 私もです。あのあたりは見事だと思ったんですね。これはもうネタを割っちゃってますがw



近江舞子 : 大丈夫ですよ。ネタバレは気にしなくて。



踊る猫 : 有難うございます。また私が語りますが良いですか?



近江舞子 : どうぞどうぞ。



踊る猫 : 個人的に良いなと思ったのは(ここで賛否が割れるんでしょうが)結局「敵」の正体がなんだったのか曖昧なまま終わるところですね。彼らの過去を匂わせるアイテムは映されますが、明らかにはされない。あとは姉と弟が母親と再会するところでわざと妙な音楽を使っているんですね。あのあたりも姉のひねくれた(失礼!)性格を現しているな、と。



近江舞子 : 「敵」の正体をはっきりさせないのは、僕もあれでよいと思います。姉と弟が母親と再会するところで流される音楽は、姉がつけたものなんですね。Skypeをやりながら、この映画を流していたのですが、本当のエンドロールが始まるまでは姉の作品だったということを意識していませんでした。



踊る猫 : そうですね。姉が自分の映像制作のポリシーを語るところで既に伏線が張られているわけですが、あのあたりは冴えてるなと思いました。
あとはまあ、これが最も肝腎ですがふたりの老人の狂った動作と形相ですね。無名の役者を使ったらしいですが、インパクトがありました。



近江舞子 : そうなんですか。たしかに、ぴったり合っていましたね。



踊る猫 : あの動作が過剰過ぎて「笑える」と評価される方も Filmarks には居られましたが、私は本当に発狂してるんじゃないかと思いました。『シャイニング』のジャック・ニコルソン並みの迫力……と書くと褒め過ぎかな。



近江舞子 : 僕は、実際に狂っていて過剰な動きをする人を何人かこの目で見たことがあるので、リアリティがあったと感じます。



踊る猫 : 私もリアリティを感じました。笑えなかったです。あそこも評価の分かれるところですね。



近江舞子 : では、そろそろ締めに入ります。
総合的に考えてどうでしたか?



踊る猫 : そうですね。まあアラはあるとは思います。それはさっきも書きましたが、姉と弟の人物造形が弱いというか薄いところですね。もう少し生々しさというか深味が欲しかった。ただ、トリックは良く出来ているし、老人の演技も凄いしで良作なのではないかと思います。



近江舞子 : 僕は、先輩とこうして対談して、なるほどそういうことかとと思う点がいくつもあったので、もう一度見返してみたいと思います。



踊る猫 : 私もシャマランの作品をもっと掘り下げたくなりました。



近江舞子 : では、次回の作品。先輩のご提案の番です。



踊る猫 : 悩んでます。黒沢清『リアル 完全なる首長竜の日』が来てるんですが、近江さんは黒沢清作品は苦手とのことなので、あとは私が個人的に観てみたいウォン・カーウァイ恋する惑星』か、それか最近ラインナップに入った『クリード チャンプを継ぐ男』にするか。どちらか選んでいただけますか?



近江舞子 : では、直感で、ウォン・カーウァイ恋する惑星』を。



踊る猫 : 有難うございます。ウォン・カーウァイの作品は不勉強にして観たことがないので、観る良い切っ掛けをいただけました。



近江舞子 : それでは、また一か月後くらいに語り合いましょう。



踊る猫 : 了解です。またよろしくお願いします。