只々、悲しくなる。
黒く細い髪も、色の悪い爪も伸びて長い。不健康さが垣間見えて、そこに若さがない。
雨が降りそうで降らない空を見上げる。向こうにはお金持ちが住みそうな高層マンションがある。コンクリートが湿る匂いが恋しい。さっと雨が降らないものかと頬杖をついてぼんやりする。
涙は、ない。枯れたわけではない。『走れメロス』や『斜陽』などを読めば、幾度でも泣ける。しかし、今は。何もないから涙がでてこない。それが、悲しい。僕の物語に登場人物が自分だけなのだ。
どうしようもないよね。世界は、悲しくて、辛くて、憂鬱で、不安で、狭くて、苦しくて、なお美しい。九月の部屋にも、また訪れる。