蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

三題噺「機械」「コーヒー」「優しい」

 某所に試しに三題噺を書いて見たところ、まずまずのものができたのでここに転載。三つの題は目に入った適当な文字列です。

『ベル・コード』
 機械の体を持つヒト型の生命体を、この国ではアンドロイドと呼ぶ。アンドロイドはヒトと同じように扱われ、社会的に生きている。ロボットのように人間が使用するモノではない。
 アンドロイドのエネルギー源はコーヒー。およそ二十五時間に一度、カップ一杯のコーヒーを摂取しなければ、動き続けることが出来ない。そして、一度でも絶やしてしまうと、内蔵の機関が永久に停止してしまう。さらに、体内に一杯より多くのコーヒーを貯められないように作られている。このため、アンドロイドにとってコーヒーは命と同義と言える。
 アンドロイドは製造される時に固有のパラメータを持たされる。つまり、同じものは二つないということだ。その目的は、ヒトに模したアンドロイドを作ることによって、ヒトの仕組みを知ろうというもので、どのパラメータによってどんな違いが出るのかを観察して、情報を収集していた。
 ベルという名のアンドロイドがいた。彼が過ごした三年間の結果、誰からも優しいと言われることがわかった。優しさ。それは人々が最も求めていたものだった。人類が皆優しさを備え持てば、戦争が無くなり平和が訪れ、果ては貧困が根絶されるとさえ考えられていた。
 早速ベルのパラメータ情報をヒトの遺伝子に当てはめ(通称ベル・コード)て、生まれながらにして優しい人間を人類はつくりだそうとした。計画は滞りなく進み、遂にベル・コードを組み込まれた最初の世代のヒトが人工授精によって誕生した。
 そして、生まれた赤ん坊はきっかり二十五時間たったあと、死んだ。