弱い雨が降ったら黒いチェックの傘でお出掛け。鞄はいらない。ウールのコートのポケットに財布とハンカチと携帯電話と鏡とリップを収めて、手ぶらで玄関の扉を開ける。手袋もマフラーもしてこなかったけれど、いつものように少し早足で歩いていれば、やがて温かくなるからちょっとの我慢。
街に冷たく湿った空気を感じる。でも、まだ雪の訪れを知らせる、鼻の奥につんとする感覚はなし。右を見れば、クリスマスの飾り付け。信仰のない僕ですら受け入れてくれるような懐の深さ。ただ、ひたすら美しい。
彼女の恋は叶わない? 世の中はずる賢い人がはびこって油断成らないけれど、それでも彼女の純粋を信じたい。自分の気持ちがわからず、閉じ込め、悶々として晴れない心。気が付けば朝。ランプの明かりは何時までも優しい。味方してくれる。応援せずにはいられない。英語の歌。悲しい歌。でも、願いは変わらない。あなたを想って。
冷やした雫が頬を伝わって物悲しくなる。早朝4時がそうさされるのか。
届け。まだ見ぬあなたへ。僕は手を伸ばしてお待ちしております。それでも甘い最後を見たい。薬でふらふら。
おやすみなさい。