蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

 庶民の僕にとっては豪華なホテルの一室にいる。暮らしていくには充分な家電や生活用品が揃っているが、ここは仕事場だ。
 ある日、やってきたとき違和感がある。よく部屋を見回してみると天井近くの壁に穴が開いており、隣りの部屋へと繋がっているようだった。急いでフロントの人に伝えようと入り口まで行くと、またそこでおかしな気配がする。トイレの明かりがついていて、さらに中に人がいた。僕は怖くなって走りだした。途中で誰だか分からない知り合いに会うと、その人は僕の様子を察して「どうしたのか」と尋ねてきた。事情を説明すると心配して一緒に付いてきてくれた。
 一階に降りフロントの人に伝えて自室に引き返す。すると部屋は元通りになっていた。僕はそのことで嘘つきと言われたり非難されることはなかった。
 夕方。ここは仕事場にしているけれど、帰るのが面倒になったら止まっていけばいいかなんて思いながらベランダに出る。物干しの位置が変わっていた。そういえば、部屋には明らかに僕のものではない物が持ち込まれているのに気付く。知り合い達がたまり場にするつもりでいるのがわかり、少々図々しいなと感じたが悪くないとも思った。
 再びベランダへ。街を見下ろす。突然、館内放送が流れる。「非常警報装置の点検のため、皆さん近くにある非常ボタンを押してください」と二回繰り返して言われた。隣りのベランダに目をやると黒いサングラスをかけた男性がくす玉の紐を握っていた。どうやらあれが非常ボタンのようだ。僕も慌てて非常ボタンという名のくす玉紐を握った。