蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

山崎マキコ『盆栽マイフェアレディ』

 そうだ。愛はなんと無力なのだろう。その人の生きることそのものの苦しみを代わってあげることは、いくら相手を愛していてもできはしない。人はみな、自分の人生の長い道を、谷を、尾根を、峰を、ひとりで越えていくしかないのだ。松本が盆栽師になれるかどうか、あがく苦しみをひとりで受け止めなくてはならないように、わたしが自分自身の心の不実に苦しんで、そのつけをいまひとりで受け止めなくてはならないように、結局のところ人は独りだ。
 松本はたぶん、そのことを知っていた。盆栽師になろうとしてあがくわたしの苦しみを代わってやれはしないと、知っていた。だから逃げて道をそれていくわたしを許したのだ。
 愛とは許しなのか。
 ならばわたしは愛されていた。こんなに愛のない女を松本は愛してくれていた。
 ありがとう松本、勇気をわけてくれて。運命に怯えず来るものを受け止めようと思います。いまだけはあなたのようにまっすぐに生きてみたい。
 松本、好きだよ。愛してる。
 おだやかな眠りにわたしは落ちていった。