蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

覚え書き

 一時間ほどずっとパソコンに向かっていたため休憩しようとし、椅子から立ち上がり、窓を開ける。すると、向かいのアパートの二階の一室に目が釘付けになった。確か空き部屋だった筈のそこには首を吊った人間がぶら下がっていた。現実にこんなことがあるのか。一瞬、震えが訪れる。そうだ。警察に電話しなくちゃ。振り返って机の傍らにある携帯電話を手に取り、慌てボタンを押す。再び窓に向かうとさっきあった首吊りはいつの間にか、それも刹那に消えていた。呆然としたまま立ちすくんでいると、耳に当てていた携帯電話から声が聞こえてきた。
「余計なことはするな」
 それは、まるで生気のない死霊のものだった。