蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

溺れる

 冬の闇の深い夜、桟橋のようなところに居た。そこがわかったのは後になってからだったが。

 僕は、何を思ったか、勢いよく軽やかに大きく跳ねて前に進み、着地する。

 と、眼前は川であった。危ないところだった。ここで今居るところが桟橋だと認識した。

 後ろに居る母に、そのことを伝えようとすると、僕の横をすり抜け、川に落ちてしまった。母は、からきし泳げない。あっという間に沈んでいく。

 僕は何のためらいもなく飛び込んだ。衣服が水を吸収し、重い。着衣水泳はしたことがなかった。僕は溺れた。

 気がつくと病院のベッドの上にいた。僕は一度死んだらしい。

 だが、そんなことはどうでもいい。母は?

 生きていた。否、生き返っていた。僕も母も溺れて死んだが、生き返ったのだ。