蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

一枚

 僅かな言葉を積み重ねていく。毎日毎日繰り返す。そこから琴線に触れるものを選り分けて、削ったり叩いたり延ばしたり継ぎ足したりして一枚にする。そしてその一枚を幾重にも束ねて一篇の詩、或いは物語に加工してやっと出来上がり。気が遠退いて身震いする。
 僕は完成させる喜びを、完遂する楽しみを知らないのだ。できたという手応えがわからないのだ。だから何時だって躊躇している。
 例えば、チョコレートにおけるカカオの純度が高まるにつれて苦味が増すように、甘い話を書こうとして純度を高めようとすると返って飲み込み辛い文章になるのかもしれない。その媚薬の効能を最大限に高めるための匙加減に注意しよう。でも、そんな作り方を考えるのはもういいから、材料を集めなきゃ。
 何を想っているの? 口を閉ざし言葉を捨てたあなたを、僕はずっと待っている。凍えがらここで待っている。
 きっと便りが来ると信じていたいのだけれど、僕は凡人だ。当たり前に疑ってしまう。胸が痛い。