「私はこの短篇集のために、十箇年を棒に振った。まる十箇年、市民と同じさわやかな朝めしを食わなかった。私は、この本一冊のために、身の置きどころを見失い、たえず自尊心を傷つけられて世のなかの寒風に吹きまくられ、そうして、うろうろ歩きまわっていた。(中略)舌を焼き、胸を焦がし、わが身を、とうてい恢復できぬまでにわざと損じた。百篇にあまる小説を、破り棄てた。原稿用紙五万枚。そうして残ったのは、辛うじて、これだけである。これだけ。」 太宰治 ――「文芸雑誌」昭和十一年一月号
昨夜は『葉』を読み返した。ここに初心が情熱が純粋がある。それを確認するために……。どこぞのお父さんの台詞のようだ。