森見登美彦『有頂天家族』、狸の矢三郎が天狗の赤玉先生を説得する場面より。
「如意ヶ嶽薬師坊ともあろう大天狗が、毛玉ごときの尊敬が必要ですか? 先生が威張っているのは狸が尊敬するからですか? 尊敬されるから威張るのですか? そんなつまらん理由ではないはずだ。先生が威張っているのは天狗だからであります。狸や人間どもが舌を出そうが、問答無用で偉いから天狗なのではないですか?」
先生は達磨を抱いたまま何も言わない。
「先ほど先生が仰ったことは矢三郎の胸のうちにしまっておきます」
誇り、美意識。それは己の内にあるものであり、他者の評価を基準とするものではない。勿論、他人から褒められたら嬉しいけれど、それは価値基準とは別。