蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

「サイベリア」

 サイベリアの永久凍土から、生きている蝶が発見された! この極めて奇妙な出来事に、世界中の地学者、昆虫学者、歴史学者など、世界中の学者たちが色めきだった。当然である。何しろ、菌やウイルスでもないものが「生きていた」のだから。その上、全身、鮮やかで、且つ、透き通った桃色である。不思議に思わないほうが不思議だった。ロシアに行き、厳重に保管されている箱の中で舞う現物を見た、ある学者が自説を述べた。これは、悲恋の末に自ら命を絶った、高貴な女性の生まれ変わりである、と。周りの学者たちは、この男の言葉は、仮説でもなんでもない。ただの戯言であると切って捨てた。しかし、男は確かに感じていたのである。蝶の涙を。蝶の声を。蝶の魂を。爪弾きにされた男は、彼女を想って学者を辞め、詩人になった。その後、たったひとつの作品を残したが、誰にも知られることなく、消えていった。