蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

 1
急に降ってわいたように物語の文章が脳内に流れだす。それを書き留めようとするが、ペンのインクが切れていて……。


 2
目覚める。今見た夢を思い出して原稿用紙に『椿』と題を付けて綴り始めようとする。しかし、その一文字以降何も書けない。言葉が残っていない。がっくりとうなだれた。
この一週間、愛知県三河地方の北の山奥にある祖母の家に身を寄せていた。思えば何をするでもなく7日を過ごしてしまった。激しく後悔する。僕は自転車で散策に出掛けた。左側に防壁工事が施された山がある車一台が通れるくらいの幅の道を左手にカーブしていって突き当たる。左右に分かれているが、左は事故の為通行止めとのこと。警察官が誘導灯を振っていた。右に進む。3月の下旬で、日陰にまだ雪がほんの少し残っているくらい寒い。だが、まばらに植えられた桜は見事に咲いて、散り始めていた。そのシャワーの下をくぐる。と。


 3
 横浜の駅の構内を歩く。見上げると電光掲示板に次々と電車の運行休止の知らせが流れる。すると、鳥の視点になり今居た所を見下ろす。駅に繋がる道は何処も封鎖され渋滞が出来上がっていた。陸の孤島となりつつある。左側からモニターがやってきてニュース番組の映像が始まる。
 「駅はテロによって占拠されました」
 これじゃ何も物語を書けない、そう思った途端に海へとやって来ていた。飛行場の滑走路だけのような平らな島がある。益々、アイデアが浮かばない舞台だ。


 4
 目覚める。今見た夢を思い出して原稿用紙に……。何も書けない。前の夢も今の夢も驚くほど自動的に、言葉が脳内をかけめぐったのに。残念。