蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

「煙草」

 夢を見た。確かに、あれは、夢だった。しかし、起きた今、内容をさっぱり覚えていない。夢を見たという記憶があるだけ。わたしは、いったいどんな夢を見たのだろうか。それを知りたくて、わたしは旅に出た。北に向かって。たっぷり二時間歩いたところでさすがに、疲れた。近くにあった公園のベンチに座って、海を眺めていたら、いつの間にか眠っていた。すると、あの夢の中に入ることができた。だいたいこんな話だ。わたしがベランダで、向かいの家の庭をぼんやりと見ながら煙草を喫っていると、猫が話しかけてきた。煙草なんぞを喫っていると、長生きできないぞ、と。五月蠅いなあと思って、右から左へ聞き流していたところで、目を覚ましたのだった。よかった。わたしは、ここに来れば、夢を思い出せる。待て。これは前に見た夢と言えるのか。どうして同じと言えるのか。今見た夢ではないのか。わたしが見た夢は、本当に夢だったのだろうか。