蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

国道23号線らしき道路。赤信号で停車中の車の後部座席に僕はいる。他に誰もいない。
 車の外、後ろのほうから
「取り締まりー、取り締まりー♪」
という歌が聞こえてくる。聞き覚えがある。金田さんの声だ。
 信号が青に変わった。急いで運転席に金田さんが乗り込んでくる。僕はたずねた。
「何処に行くんですか?」
「水族館」
彼女は楽しそうに答えて、手書きの地図を手渡してくる。碧南の水族館に行く模様。だが、現在地はわからない。
「昨日、免許取ったばっかりなんだよー」
無邪気に言い放つ。
「大丈夫ですか? 大丈夫ですか?」
しきりに僕は尋ねるが、彼女は陽気に鼻歌を響かせる。
 僕は地図と景色を見比べようやく今何処か把握した。どうやらこのまま道なりにいけばいいようだ。少し安心したのも束の間、突如スピードが速くなる。
「金田さん、制限速度知ってますか? 60キロですよ」
「そうだよねー。ごめん、ごめん」
流れゆく風景がゆっくりになる。
 何時の間にか、僕は助手席にいて、金田さんととりとめのない話をした。