蝶になったあの日から

乙女心と秋の空 / HEAVY MENTAL HERTZ

2023/06/23(金) or 余計あせっていた。

 僕は自分がなぜ生きていなければならないのか、それが全然わからないのです。
 生きていたい人だけは、生きるがよい。
 人間には生きる権利があると同様に、死ぬる権利もある筈です。
 僕のこんな考え方は、少しも新しいものでも何でも無く、こんな当り前の、それこそプリミチヴな事を、ひとはへんにこわがって、あからさまに口に出して言わないだけなんです。
 生きて行きたいひとは、どんな事をしても、必ず強く生き抜くべきであり、それは見事で、人間の栄冠とでもいうものも、きっとその辺にあるのでしょうが、しかし、死ぬことだって、罪では無いと思うんです。
 僕は、僕という草は、この世の空気と陽の中に、生きにくいんです。生きて行くのに、どこか一つ欠けているんです。足りないんです。いままで、生きて来たのも、これでも、精一ぱいだったのです。

――太宰治「斜陽」

 直治の遺書の一部。「これは僕だ!」と雷に打たれたような感覚を覚えた。そして、太宰治が僕の神様になった。この遺書の最後はこうだ。

 結局、僕の死は、自然死です。人は、思想だけでは、死ねるものでは無いんですから。
 それから、一つ、とてもてれくさいお願いがあります。ママのかたみの麻の着物。あれを姉さんが、直治が来年の夏に着るようにと縫い直して下さったでしょう。あの着物を、僕の棺にいれて下さい。僕、着たかったんです。
 夜が明けて来ました。永いこと苦労をおかけしました。
 さようなら。
 ゆうべのお酒の酔いは、すっかり醒めています。僕は、素面で死ぬんです。
 もういちど、さようなら。
 姉さん。
 僕は、貴族です。

 美意識と愛と。この初期衝動を忘れたくない。